今までに訪ね歩いた場所についての備忘録。
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アドリア海の女王とうたわれるイタリアの古都ヴェネツィア。

どこの国でも大きな街は水辺と密接な関係があるが、この街と水の関係性は独特だ。

石造りの街の隅々にまで運河が入り込み、その様子はまるで一夜にして静かな水が押し寄せたような雰囲気を持っている。
物語を秘めた風景だ。

鉄道でこの街につくと広場があり、「バス停」と書かれたサインの下には軽快なエンジン音と共に乗り合い船が到着する。なんだか冗談のような愉快な風景である。

街の中心を流れる「大運河」には、けたたましいエンジン音の船も行きかっているが、迷路のような裏通りに一歩入ると、静かな空間が広がっている。この街は自動車の乗り入れが禁止されているので、時間は船のリズムで流れる。

「一夜にして静かな水が押し寄せたような」静寂な雰囲気を感じるのも、この時間の流れ方と無関係ではないだろう。


だが、船が通ることができるようにアーチを描いて造られた橋には階段がついており、けっしてバリアフリーな街とは言えない。少しの距離を移動するためにいくつもの橋を渡らなければならない。
車椅子での移動を考えると非常につらい道であるに違いない。

しかし、この街には「船」という交通手段がある。
現在の日本ではバリアフリーの名のもと、とおり一遍等なスロープが造られることが多いが、発想の転換で別の回答を見つけることも可能ではないだろうか。

そんなことも考えさせられる美しい古(いにしえ)の都だった。
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北欧の自然はシンプルで厳しい。

大きな木は種類が限られていて、目にするのはトウヒやマツといった常緑の針葉樹、白く明るい幹肌のシラカバ、赤い実で目を楽しませるナナカマドといった限られた木々だ。
国土は堅い岩盤でできており、薄い土壌に育つ植物たちは短い夏を何度も重ねて緩やかに育つ。


ストックホルム郊外にある森の葬祭場と森の墓地は、樹齢200年のマツやトウヒの自然林を利用して作られた場所だ。
1915年、人口が急激に増加したストックホルム市は将来必要になると思われる壮大な墓地と、葬祭場の国際コンペを行った。
そのコンペを勝ち抜いたのがグンナール・アスプルンドとシーグルド・ レヴェレンツという二十代の二人の若者だった。

現在この地で見られるのは、その優勝案とは大きく異なる。世界大戦による予算縮小の影響で計画変更を余儀なくされたからだ。だがその経緯が幸いしてか、きわめて優れたランドスケープと空間が創り出されている。

世界遺産にも登録されているこの墓地と葬祭場。
最も知られた大きな十字架に向かう道は本来の主動線ではない。
当初から多くの一般市民のために創られたこの墓地は電車で訪れ、そして歩いて葬祭場へ向うよう計画されている。もちろん将来を見越して、当初から車の動線も想定されているけれども。

参列者の道は丘へと向かう階段から始まる。既存の地形を利用した丘の階段は頂上に近付くほど緩やかな段差になっており、人々の息が切れないように配慮されている。

心静やかに丘の上に登ると、12本のニレの木と花壇で囲まれた井戸がある。心を静めるための空間だ。12の数は一年の巡る季節を表しており、人生の推移をそこに感じ取ることができる。

そこからは遠く南に真っ直ぐな道が通っていて、その先に葬祭場が見える。

芝生の丘を下りると最初に見えるのは輝かしく白い幹を見せるシラカバの林。この明るい林は人生の華やかな時代を表している。

その林に続くのが真っ直ぐな赤い幹を見せるアカマツの森。林床は芝生で覆われていて小さな墓石がならんでいる。日本の墓地とは違って明るい雰囲気で、斜めから差す陽射しの影が美しい。

さらに足を進めると、葬祭場の近くはトウヒの暗い森だ。これらの森では、木々がそれぞれの空間で葬列者へ心の準備を促す。神社の参道にも似た荘厳で精神的な道のりだ。

建築内部の床は棺台に向って緩やかな傾斜がつけられていて、故人の入った棺に自然と視線が集まるように計画されている。
当初の案では祭壇も設定されていなかった。神ではなく、故人を想う空間にするためだ。

この墓地には三つの葬祭場があるが、後に建てられた二つの建物は参列者が建物に入る扉・退出する扉は別々に設定されていて、悲しい時間を過ごした人たちは最後に明るい空間に出て、再び日常の世界へ戻っていくことができるようになっている。



最後に作られた、最も大きな葬祭場。その内部は300人が参列できる大広間と、その他の二つの小間に分られていて、それぞれに待合室と心を休める小さな庭がある。市民のための葬祭場として作られたこの建築は葬儀が込み合う時も、互いのグループが顔を合わせないですむよう動線が設定されている。

訪れた当日、小間の方では葬儀が行われていたため、大広間を見学させてもらった。内部は参列者の痛んだ心が安らぐよう、すべては緩やかな曲線で構成された空間になっている。どこまでも参列者の心に沿うような空間。

式が終わると背後の大きなガラス窓が自動で降り、光に満たされた明るい風景がパノラマ状に広がるように計画されていた。
だが、この計画は時期尚早だったようで、竣工当時、葬儀に相応しくない大きな機械音が出てしまったため、新たに付けられた小さな扉から出入りするように変更された。


設計者であるグンナー・アスプルンドが亡くなってから68年後の2008年、新しい技術が導入され、このガラス窓が自動で静かに降りるよう改良された。
この11月にお披露目をされることになったらしい。内部空間を曲線で作ることにこだわったためガラス窓も曲線を描いていて、技術的に非常に難しいものだったという。
この改良によって、よりアスプルンドが目指した葬祭場に近付くことだろう。



見学の最後、敷地内にあるアスプルンドの墓を見た。その小さな墓碑には

---彼の建築は生き続ける---

と記されてある。


この場所を的確な説明で案内してくださったA女史、そしてこの場所の見学ツアーにお誘いいただいたI 御夫婦に深く感謝します。



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数々の歴史の舞台となり、フランスを代表する庭園としても有名なヴェルサイユ宮殿。
学生時代、地平線のかなたまで人工的に造られた庭園を歩いてまわり、この庭のハイライトは宮殿周辺からの眺めで、移動は馬か馬車の使用を前提に計画されていると思い知らされた。

どこまで行っても変わり映えしない景色、先へ進むほど大味な刈り込み。庭園内の施設と施設の間は恐ろしく離れている。
宮殿内の黄金装飾も、日本の蒔絵や截金(きりかね)を見慣れた目には雑な仕事としか映らない。

フランス式の宮殿に落胆してから十年、やっとヴォー・ル・ヴィコント城を訪れる機会を得た。



ヴォー・ル・ヴィコントはヴェルサイユの庭園を設計した人物 (ル・ノートル) が、ヴェルサイユよりも以前に手掛けた庭だ。この庭をもってフランス式庭園が始まるとされる。

美しい並木道を抜けて、幾分厳めしい門構えから館に入ると鏡張りの扉がある。今、通ってきた景色が映るこの扉を開けると、広間の向こうに美しい庭が広がる。鏡の中の国に来たような不思議な演出。

果てしないヴェルサイユとは違って、適度な広さが心地良い。
ヴェルサイユは 「森に引かれた道と水路のヴィスタ(軸線)」 のイメージが強いが、ここヴォー・ル・ヴィコントは 「森に包まれたフラットな庭園」 の雰囲気を感じさせる。


刺繍(ししゅう)花壇の繊細な美しさはどうだろう。地上に吸い付くように、まさに 「大地に刺繍された」 ように見えるのは花壇が一段掘り下げられ、ツゲの刈り込みが周辺の地面と一体となるよう計画されているからだ。様々な色の砂利と芝生、微妙な高低差を利用することで整然とした美しさと繊細さが同居している。



館を出て、庭園を進む。
なだらかに下る敷地を利用して創られたテラスが空間の分節となってリズムを創り出す。

庭の中央に位置する池まで行くと、新たに左右に眺望がきくようになっていて、左右で景色が違う。全くの左右対称ではないのだ。

屋内からは庭のアクセントとして見えたゼラニウムの植木鉢や西洋イチイの刈り込みも、近くに行くと見上げるように大きく迫力がある。

庭を歩いていると、その刈り込みたちが動き出す。
同じ大きさの刈り込みが距離をおいて点在するため、錯覚でダンスでもしているかのように動いて見えるのだ。



庭の視線の先にある、丘の上の彫像を目指すと、館の展望台からも見えなかった大きなカナル(水路)が姿を現した。
そのカナルの手前には館に背を向けて豪華な壁泉噴水彫刻が設えられてある。室内から眺めるだけではこの壁泉噴水の存在に気付かない。

庭を進んで初めて気付くこの贅沢な空間。そう、この庭は館から眺めるだけでなく、その中を動いて楽しむ庭でもあったのだ。
自然の小川を堰き止めて作ったこのカナルでは舟遊びも行われたという。※


「足を進めると違った景色が立ち現れる」


日本の池泉回遊式庭園や中国庭園、イギリスで生まれた自然風景式庭園にのみ使われるこのフレーズは、フランス式庭園発祥にして最高峰と言われるここ、ヴォー・ル・ヴィコントにも当てはまる修辞句だったのだ。

■ 現地で録画した動画はこちら(音が出ます)■



※参照 『ヴォー・ル・ヴィコント春秋 -魅惑のフランス庭園-』 岡崎文彬著


 
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